B型肝炎とは 垂直感染 水平感染 母子感染 キャリア セロコンバージョン

B型肝炎

 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染は,大まかに分けると@出産時に母親から感染する(垂直感染),A大人になってから血液を介して感染する(水平感染),B性行為感染症として感染する(水平感染),などが考えられます。出産時の感染は,1986年に「B型肝炎母子感染防止事業」が始まり,現在では感染の機会はほとんどなくなっています。血液を介しての感染は,けが等で出血したウイルス感染者の血液が皮膚の傷に入った場合,医療関係者の針刺し事故,消毒不十分な器具を用いた入れ墨などの場合があります。
 垂直感染や,乳児期の感染,また成人でも免疫不全状態の時に感染した場合は持続感染となります。これまで,成人の水平感染の場合は持続感染状態への移行はまれと思われてきましたが,最近欧米に多い genotype A と呼ばれる遺伝子型のB型肝炎が日本にもみられるようになり,この肝炎は水平感染でも慢性化することが1割ぐらいあります(以前より日本人にあるのは,8割余りが genotype C で,1割余りが genotype B です)。
 診断は血液検査で HBs抗原を調べ,陽性であればB型肝炎ウイルスに感染状態であると判断できます。また,一般的に IgM-HBc抗体を測定し高力価であれば急性感染であることが確認できます。持続感染の場合は,HBc 抗体が高力価陽性になります。
 水平感染の急性肝炎の場合は,1〜6ヵ月の潜伏期間後発症します。まずHBs抗原が血液中に出現し,次いで IgM-HBc 抗体が陽性となります。更に,HBe抗原や血液中のウイルス量を表す HBV DNA や DNA ポリメラーゼが上昇してきます。その後,HBV が体から排除されると HBs 抗原が陰性化しますが,それに先がけ HBe 抗原や HBV DNA(DNAポリメラーゼ)は陰性化します。また,体の免疫反応により HBV に対する種々の抗体が作られます。HBe 抗体は HBe 抗原が陰性となった後早期に作られ,更に遅れて HBs 抗体が作られます。
 陽性の場合の意味をまとめると以下のようになります。
  HBs抗原…HBV に感染していることを示します
  HBs抗体…HBV 感染の既往を示します
  HBe抗原…ウイルスの活動性が強いことを示します
  HBe抗体…ウイルスの活動性が弱いことを示します
  HBc抗体…低力価は感染の既往を,高力価は感染の持続を示します
  IgM-HBc抗体…B型急性肝炎では高力価陽性となります
  HBV DNA(またはDNAポリメラーゼ)…ウイルス量を示します
B型肝炎ウイルスの検査結果の判断は難しく,ひと言では言い表しにくい部分があります。おおざっぱに,考え方を図にすると以下のようになります。円の中心部より外側に向かって,検査結果を当てはめていきます。
 急性肝炎は基本的には予後良好ですが,時に劇症化という極めて重い状態になり致命的な転帰をとることもあります。
 前述のように,出産時や乳幼児期の感染,また成人でも免疫不全状態での感染は持続感染となります(キャリア)。HBs 抗原が持続陽性であればB型慢性肝炎と診断でき,その場合 HBc 抗体は高力価陽性を示します。(HBs 抗原の遺伝子が変異を起こすと,HBs抗原が産生されなくなることがあります。この場合は,HBc 抗体が高力価陽性でもHBs抗原は陰性となりますが,HBV-DNA や DNA ポリメラーゼなどでウイルスの存在を確認することができます)。乳幼児期に感染した持続感染の場合は,自然経過中20才前半頃までに肝炎を発症すると,HBe 抗原が陰性になり HBe 抗体が陽性へと変化します(セロコンバージョン)。この状態になると,多くがその後良好な経過をたどります。
 持続感染の場合はウイルスを完全に排除することが難しいので,HBe抗体陽性へのセロコンバージョンを起こすことがひとまずの病期の区切りになります。但し,B型慢性肝炎の経過は多種多様で,年齢と病期の進行度,炎症の程度により異なり,画一的な治療は困難で,専門医の知識が求められます。以前は,インターフェロンしか効果のある薬剤はありませんでしたが,最近,ラミブジン・アデホビル・エンテカビルといった,B型肝炎ウイルスに対して効果のある抗ウイルス剤が出てきましたが,投与時期・副作用・服用期間・耐性ウイルス出現などの問題が残されています。B型肝炎ウイルスは,肝炎を起こすだけでなく肝癌を発症させる侮れないウイルスであり,今後更に治療法の改善が期待されます。

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